このように治療してきても大事なことが忘れられています。それは、細くなった脚または腕を細いままに維持するということです。
経験がおありと思いますが、1日~2日仕事を休んで寝ていると、結構軟らかくて楽になったと思っていても、ちょっと外出して一日歩き続けたり働き続けたりすると、簡単に脚または腕はパンパンに固くはってしまいます。これは立ち続けている、または腕を下垂しておくことにより重力がかかり、血管内の内圧が上がって、血管外(皮下組織)の蛋白や水分などの体液が静脈やリンパ管などへ再吸収されにくくなってしまうためです。
これを防ぐためには外側から強い圧を加えると良いわけで、弾性ストッキングまたは弾性スリ-ブを用います(4)水中での軽い運動で述べている水圧も同様の効果が期待できます)。また、これは布地の弾性や編み方の関係でマッサ-ジの効果も期待できます。比較的圧迫力が強くかつ弾力も強い製品が効果的のようです。徐々に下肢または腕が細くなってきましたら、その都度少しずつ細い製品に取り替えていかなくては効果がありません。 適当な圧の強さは以下の通りで、出来るだけ強い圧(だいたい30~50mmHgぐらい)がかかるものを用います。
1:着用していてシビレや痛みがない(組織への過度な負担がない)
2:動きに支障がない(関節への負担がない)
3:足先または手先が白くなったり(動脈閉塞)、うっ血(静脈閉塞)したりしない

弾性スリーブ・ストッキングは、着用が大変で結構時間がかかり、装着するまでに汗をかいてしまう程度の強さです。簡単に着用できるものですと圧が弱すぎて効果がありません。着脱時に補助器具(バトラー®、ストッキングドナー®、ヒールフィッター®、イージスライド®など)を使用するとかなり助けになります。なお、弾性スリーブ・ストッキングは長くても半年しか持ちません。
日常生活上では、朝起床時に着用し就寝時に脱ぐようにします。脚のストッキングにはいろいろな種類がありますが、片脚用で腰に固定できるタイプのものが基本となります。腕用のスリ-ブには手の甲まで覆うもの、覆わないものの2種類がありますが、一般的には日常生活の利便性から手首までのものが好まれますが、手の甲がむくみやすいのでミトン付きスリーブが好ましいことになります。着用が楽になってきたら交換します。弾性スリーブ・ストッキングは長くても半年し か持ちません。傷んだものを使い続けると、脚や腕は再び太くなってきてしまいます。基本的には一生着用が必要です。
脚では大腿上部、下腹部、腕では前腕、上腕部のむくみは、このような弾性スリーブ・ストッキングでは十分な圧がかからず、治療が不十分になりがちです。このような部位には弾力包帯などで別に圧を加えていくこともあります。外陰部もむくみます。この部位も例外ではなく圧を加える必要があります。着脱時の注意としては腕や脚、特にその付け根に食い込みがないことがとても大切です。

このようにリハビリを繰り返し、起立している時または腕を下垂している時には必ず弾性ストッキングまたはスリ-ブを着用することにより、初めは比較的急速に細くなりますが、ある程度までいくと治療効果があまり感じられなくなってきます。これは、初めは組織間隙の水分が急速に引き、減少していく一方で、一旦組織間隙にできてしまった線維や脂肪の沈着はなかなかとれないためと思われます。この場合にも方針をかえる必要はなく、同じようにリハビリを続けると良いのですが、さらに積極的に揉み解すようなマッサージを加えると効果的のようです。繰り返しになりますが、弾性スリーブ・ストッキングはあくまでも他の方法で細くした周径を維持するためのもので、決してこれだけで細くはできません。
注:最近、圧の表記はmmHgからヘクトパスカルhPaに変わりましたが、ここでは従来の水銀柱の圧mmHgを用いています。平成20年4月からの保険適用時の書類でもmmHgが使われています。1mmHg=1.333 hPa (European standard 1998)

■ 実際の方法


1) 朝起床時すぐに弾性ストッキング・スリーブを着用し、夜入浴前または就寝前にはずす。
*朝起きて1~2時間、一仕事してからでは遅すぎる。
*夜入浴後の時間帯も基本的には着用が必要である。
*就寝中、無理のない程度に一段弱めのものを着用するのも良い。特に手の甲がむくむ場合は痛くない程度の無理のない弱い圧迫は効果的である。
2) 日常の起立または腕下垂時には必ず着用する。
※手の甲は日常生活上押さえ続けられないので、姿勢を低くしたり、収納は高くしたりすることで、少しでも手が高い位置になるように注意する。
3) 脚または腕が赤く熱を持っているときは着用しない。(6:蜂窩織炎参照